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2021年1月

天国にいる話し相手

 「アタシたちはねえイークン、ミッちゃん、ヨッちゃんて、名前で呼び合っているのよ、宜しくね」

 八年前、猫のイークンが私たち老夫婦と一緒に生活するようになった時、こう自己紹介したのだった。そして二人の会話には、合の手にイークンの名がいつも入っていた。

 「ヨッちゃんがね、今夜のカレーは味が薄かっただってイークン、そりゃあないよね」  

 「薄いものは薄いよ、なあイークン」

 一事が万事こんな具合だった。聞かされるイークンこそいい迷惑だっただろうが、そのイークンが「二人はイークンのために、できるだけ長生きするからね」と常々語りかけていた老夫婦を残して、先に天国へ行ってしまったのだ。

 「ヨッちゃんはねえ……」「ミッちゃんたらねえ……」と話しかける相手を失った老夫婦は、ありし日のイークンを思い出してはては涙、涙……の日々が続いた。

 そして気が付いた。悲しんでばかりいたのでは、イークンのためにならない。これまで通りに、天国のイークンに語りかけよう……と。

 「今日は雨が降っているけど。カラオケ同好会に行ってきたよ、案外うまく歌えたよ、イークン」

 「あの調子っぱずれが、急になおるわけがないわよね、イークン」 

 庭の隅に埋葬したお墓に、差しておいた白菊が、咲いている。

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イークンが逝った

何で……どうして……

8年間一緒に暮らしていた猫のイークンが、この世を去った。

前の日まで大威張りで君臨していたのに、唐突に老夫婦の前から姿を消した。

もうこの歳では最後まで一緒に生活することができないから、ネコを家族にすることを諦めていたのだが、運命的な出会いに遭遇したために、一緒に暮らそうと決めたのだった。

「イークンのために、できるだけ長生きするように努力するからね」

常々そう語りかけてきた私たちは、今年85歳と82歳になる。せいぜいあと数年も生きればいいところだろう。もしそれが5年後のことであったら、その時イークンはまだ13歳、人間に換算すれば68歳だ。たとえそんなことになったとしても、猫好きの従姉妹が引き取ってくれる約束になっていたので、心配はなかったのだが……。

それなのに何で……。

前夜遅くまで帰ってこなかった。これまでにも何度かそういうことはあったので、そのうち当たり前のような顔をして帰ってくると決め込んで、先に寝た。ところが翌日の昼すぎになっても帰ってこない。その時もまだ、どこかで昼寝でもしているのだろうから、呼びに行こうかと話し合っていた。

取り敢えず縁の下に声をかけてみようかと、廊下のガラス戸を開けて目を下に向けた。その目にイークンの変わり果てた姿が飛び込んできた。そんなわけがないと、名を呼んでみた。返事をしない。イークンの死を悟った。

私たちを残して、何で、どうして……未だに納得できない老夫婦である。

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あの息子がねえ

千葉県の船橋市に住む息子から年頭のあいさつの電話が来た。小さいながら独立して建設会社を経営しており、仕事の方はぼちぼちだといった後、話はコロナに移った。そして、当然といった口ぶりで言った。

「ここ2~3年はマスクを外せない年が続くと思うよ、俺は」

断定的に言い切った口調に気おされていると

「西之表でもコロナ感染者が一人出たんでしょう。お父さんもお母さんも年なんだから、気を付けてよ」

そう言った後さらに続けた。

 

「それはそうと、今年は満85歳になるんでしょう。まだ運転は続けているの?」

「頭もしっかりしているし、ブレーキとアクセルの踏み間違えもないし、大丈夫だよ」

「そうはいっても、事故を起こしてからでは遅いよ。自動停止装置のついている車に買い替えなよ」

「そうだな、考えてみるよ」

 

そう答えてから、この息子がわんぱぅだったころを思い出していた。そして、その子から心配されるようになったんだなあ…と実感。人を使う身になった我が子を頼もしく思ったのだった。

 

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